カナダ外資系日記

海外就職、海外で働く、株式投資について書きます。

レイオフされた気持ち

今年1月26日、私はレイオフされました。競合他社による私の勤めていた会社の買収に伴い、2100人がレイオフされ、私もその一人となりました。あれから4ヶ月近く経ちますが、今でもその瞬間を鮮明に覚えています。絶対にこのことは死ぬ前でも絶対に忘れません。

 

10月中旬の日曜日、娘たちを水泳クラスからピックアップする朝9時、いつものように車のラジオをかけていると、XX Energy was acquired by YY Energy. という言葉が聞こえました。私の会社は常に買収する側でされることは無いと思っていたので耳を疑いましたが、間違えるわけはありません。その後メールで社長からのメーッセージが全社員に送付されていました。今だから書きますが、買収というのは数字の裏に隠された人の思いがあり、簡単に言うと私の会社のCEOはもう株主からのプレッシャーに耐えることができなかったのです。従って、会社を売却することにより筆頭株主は当然保有分の株式比率は薄まりますが、合併した会社の株式を持つ方に希望を持ちました。簡単に言えば、新会社の経営陣により期待したわけです。私の会社のCEOは年は62歳、既に引退を考えていて、普通に退職しても数億円のお金が入りますが、この会社売却により更なるお金を得ることができるのです。これはカルガリーのオイル買収劇の歴史の中でも最大規模の買収ですが、案外こんなところから起こっているのです。彼は疲れちゃったんです。

 

この買収発表と同時に、新会社社長は大幅なシナジーを出す、そしてとても辛い決断をしないといけないということを発表しました。当然株価は上がりました。そして、1月26日、予定通りレイオフです。その前日にすべての社員に会社からお達しがあり、明日は必ずMS Teamsにつなげておくこと、そして全ての会議をキャンセルし、繋がる状態にすることとの連絡です。

 

レイオフは8時から開始。コンピュータ上で社員同士様々なチャットが流れます。私も数人の友人とやり取りしていました。そして朝8時24分、私の上司がTeamsの画面に現れました。この瞬間、全てを悟りました。そして即座に、人事、転職支援サービスの人が画面に現れ、私の上司から雇用契約の中止を通告されました。無駄な話は一切ありません、Thank you for your contribution to XX Energy. Your service is no longer requested. Severance package is explained by HR. Wish your great success in your next endeavor. だったかな。

ものの20秒の説明です。この会社に10年働きましたが、この決り文句のような20秒の会話で全てが終わりです。その後は人事からPackageをメールで送るということで20秒、そして見ず知らずの転職支援サービスの方と20秒、合計一分のできことです。この経験をカルガリーだけで、私の会社だけで2100人の社員がしました。

 

愛社精神とか甘っちょろいことを言うつもりはありませんが、プロショッフォナルト言えどやはり人間です。仕事を通じて会社に貢献する気持ちはかわりません。Packageもものすごくいっぱい貰いました。日本のちょっとした中古マンションなら変えてしまうくらいです。でも、心は空っぽでした。頭では知っていました、2014年末のオイル価格下落以来、毎年年末はレイオフがありこれが恒例行事です。どんなに優秀でも毎年生き残ることなんて出来ません。上司が切られて守ってくれる人は誰もいなくなるかもしれないし、新しい上司とあまり合わないかもしれない、誰かが自分のことを嫌いかもしれない、そう、自分だけがレイオフされないなんてありえないことは知っていました。そしてたくさんの同僚が背中を丸めて出ていくのを過去6年間も見守りました。そう私は6年間勝ち続けた。勝ち組でした。でも、これは自分に起こった現実、自分の家族に起こった現実なんです。この気持はレイオフされていない人間にわかるわけはありません。どんなに他人が君のせいじゃないと言ったって、あのときのあれが良くなかったのか、もっとやれることはあったんじゃないか、自分の能力が足りないのか、現に残っている人間がいるじゃないか、Loserの気持ちでいっぱいになります。ましてこの段階まで生き残っている人間にLow Performerなんていないんです。日本でもリストラというものがありますが、全く質が違います、スケールが違います。きっと日本にいるかたにはわからない。同じカナダでもレイオフされた人間にしかこの気持は本当にはわかりようがない。

 

先日チョコレートをお世話になった人に車で配りに行きました。その中の一人はそう、私の元上司で8時24分にTeamsで出てきた人です。私はPositiveに行きたい、この人にReferenceになって貰う必要がある、私の為に新しい会社に推薦状を送ってもらいたい、だからあえてこの記憶には蓋をきれいにしてポジティブに前向きに明るく話をこの方とはしていました。このレイオフの話は一切したことはありません。でもね、車でこの方の家に付く前、この8時24分がフラッシュバックして胸が苦しくなりました。ここカナダのプロフェッショナルのシーンにネガティブという言葉はありません。常にポジティブ前向きに明るく。今回もポジティブにReferenceになってもらったこと、推薦状を送ってもらったことにお礼を良い、笑顔で、今後はお友達としてよろしくと言って返ってきました。とても明るく笑顔で話しましたが、自分のほんとうの気持ちがどこにあるのかは未だにわかりません。本当にそう思っているのかもしれないとも思います。

 

きっと95%の元同僚が仕事をまだ探している。きっと2年経っても見つからない人も多数いるでしょう。だって、どんなに優秀だって実績があったって、コモディティビジネスは価格が低迷していたら人はいらないから。そして、他の業界は元オイルマンは以前の給料レベルが高すぎて雇いたがらないから。その意味では私はとても恵まれています。そして、たくさんのSeverance Packageを貰ったのに4ヶ月で仕事を見つけたので金銭的には丸儲けともいえます。レイオフされて新しい仕事が見つかって、前会社と同等もしくはそれ以上の会社からオファーを取ったので良かったのかもしれません、でもだからレイオフされてよかったと言われれば答えることは出来ません。人間あんな辛い経験をすべきなのかがわからないからです。でも、一つ言えることは人に優しくなれたように思います。そして、レイオフされた人間にとても親身に優しくなることができる、少なくとも彼らの彼女らの気持ちはわかってあげられる。日本の会社の方にはきっとわからない、この意味でも、終身雇用の座布団に座っている日本の方が、このレイオフを生き抜く欧米人を部下にすることは絶対にできない、覚悟が違います。海外企業で働くって、お金もいっぱい貰えるし休暇もたくさんもらえるけど、厳しいですよね。今本当にこの厳しさを痛感しています。しかし、新しい会社では目一杯また楽しみたいと思います。ポジティブ前向き明るく。