短期のオイル価格動向を考える
今日はオイル価格が今後どうなるのかを考えてみたいと思います。私はこの業界の人間だからといって価格予想を専門にしているわけではないのですが、自分なりの理解をまとめたいと思います。
4月22日のEIA (The U.S. Energy Information Administration )発表によると、USの原油在庫が518 million barrelsに到達し、先週から15 million barrels上昇しました。私の記憶では、2017年に535 million bbls が最高だったと思います。いずれにしても、このペースでは2週間を待たず、5月初旬には過去最高の在庫を記録します。
米国の原油貯蔵キャパシティの限界は実は誰もわかりません。ただ、実際に貯蔵タンクに空きがあっても誰もがそこにアクセスできるわけではなく、その貯蔵タンクを保有している会社もしくはそこからリースしている会社しかそこにアクセスできません。まして、現在の環境下では貯蔵タンクはアービトラージを利用できる戦略的な価値があるので、スペースを保有していても手放しません。実際に私の会社もカナダのある町にせっせと貯蔵タンクを建設しています。ただし、535 million bblsがキャパシティの限界かどうかはわかりませんが、少なくとも、かなりやばいとマーケットの共通見解ができているので、その理解に基づき価格が動くと思います。
さて、4月17日のUSの陸上原油生産量は12.2 million bbl/d となっており、一ヶ月前より1 million bbl/dほど減少しています。正直余り減ってないなというのが印象です。恐らく生産停止によるものよりも生産のNatural Declineによるものがメインだと思います。今日私の同僚のJoint Venture アナリストと話をしたのですが、当社でも赤字垂れ流しの資産の生産中止をしたいアセットがあるのですが、Joint Ventureパートナーの了承が取れずなかなか生産中止できないとのことでした。カナダのオイル資産は権利関係が複雑に入り組んでおり、そのパートナーが小規模の会社だと大規模の会社より人件費が低く、先週書いたBreak Even Priceが会社ごとに違います。この資産の場合、契約上パートナー了承が95%必要で、なかなか生産停止は難しいとのことです。米国もほぼ同じ状況でしょう。つまり、原油価格が下がったからと言って自社100%の資産以外は一社の判断のみで簡単に生産停止できないので、生産は劇的には減少せず、やはり5月初旬に史上最高の在庫を記録するでしょう。
となると、6月のWTI(北米原油価格指標)価格の最終日が5月25日(月曜日)とすると、6月の貯蔵施設へのNomination最終日は5月20日近辺、といっても貯蔵施設に空きは殆どありませんから6月の契約のバイヤーを見つけることは難しいでしょう。つまり、今月と状況は全く変わっていないので今月に起きたような直前に買い手が見つからずパニック売りが出てWTIマイナス価格になる可能性はあります。ただ、次回は今週からのレッスンがあるので6月のFuture Contractを保有する実需ではない投資家達は早めに売却するでしょうから、5月初旬から中旬にかけてまた価格が下落するんじゃないかと思います。そうなると、株価もマイナスの影響を受けると思うので、それを頭に入れて年金の運用を行いたいと思います。
まあそうは言っても、政府やOPEC+の介入は読みが難しいのでなんとも言えません。ただ、OPEC+が減産してもサウジから米国への輸出は0.5 million bbl/d に過ぎないので、米国オイルの供給は殆ど影響を受けず在庫は減らず、OPEC+の動向はWTIには影響は与えるものの、この貯蔵設備不足による価格下落には余り関係ないかもしれません。